生まれた子猫たちを拝見しに。
見るだけのつもりで。
でもなぜか、小さなダンボールを抱えて帰った。
最初は別の子に惹かれたんだけど、「その子はメスだよ」と言われ、
仕方なく、「じゃあこっちの子にする」とオスの子猫に決めた。
猫が飼いたくて、何度も両親に懇願するも、
当時は社宅住まいで毛頭無理、母親も猫が嫌いとか言うし。
じゃあ、もう現物を連れて帰って、説得を試みる作戦で。
反対していた母親も、あまりの可愛さに打ちのめされたのか許しが出て、
翌日、トイレや砂や何やかやを買ってきてくれた。
その新しいトイレで、子猫は1日我慢してたオシッコをした。
「今までちゃんと我慢してたんだねえ。えらいねえ。いい子だねえ。」
脱走したり、壁をよじ登って落下して大事な牙を折ったり、
角部屋の我が家から、ベランダの手すり上を走って、
一番向こうの角部屋のお宅まで行ったり。
近所にバレバレで、持ち家計画が前倒しとなって引越した。
オスのつもりで名付けもしたのに、病院に行ったらメスだと言われ。
笑うしかない事実に、結局改名はしなかった。
やんちゃな時代は、外で色んな物を拾い咥えて持ち帰り、主人に見せる。
虫やら、小物やら、小鳥…やら。
いつしか、どこで拾ったのか大きな刷毛を引きずりながら咥えて来た。
野良猫にいじめられ、傷を作って帰ってくる内弁慶。
鳥を見てはケケケと言い、網戸に登って穴を開ける。
年と共に、猫本来の落ち着いた性格が出てきて、
ごはん時とドアを開けて欲しい時のみに甘えてくるクールな猫となった。
好きなものは、鶏肉のささみと刺身とチーズ。
嫌いなものは、人間の子供。
贅沢にも、月に1度送迎付きのシャンプーに通った。
迎えの車が到着すると、
ダッシュで逃げて、折角のお迎えを台無しにしてしまった事もあった。
帰宅が遅くなると、早くごはんを寄こせと怒る。
名前を呼ぶと、長い尻尾でバンバン返事する。
安心しきって仰向けで熟睡する。
ソファと柱で爪とぎ。
丸めた前足。
色んな姿を思い出す。
20歳。
最期は苦しい思いをさせてしまった。
悔いが残る。
20年の間、父親の単身赴任や姉の結婚、私の一人暮らしに結婚。
家族の形が変わっていったけど、実家にいつも居たのは母親と猫。
一番悲しんでいるのは、昔は猫が嫌いだった母親。
私は、その猫ごときで急遽一時帰国した。
最後に家のお風呂で体を清めた。
シャンプーは大嫌いだったねえ。ごめんねえ。
家族と写真を広げて思い出話をする。
火葬の日まで、母親と挟んで隣で寝た。
小さな骨壷を抱えて家に戻る。
もう居ない事が信じ難い。
ドアの隙間から、白い前足が出てくる気がする。
2階で物音がすると、居るんじゃないかと思う。
階段を下りてくる気がしてくる。
この家に猫が居なかった事がないから、
慣れるまで時間がかかりそうだと、母親が言う。
大切な家族が天国へ旅立った。
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エアコンの室外機(2階)の上 何を見てるの? |
たくさんの思い出をありがとう また会いたいよ |